しまねの職人

【彫刻工芸中尾】木工の名匠が作り上げる逸品“出雲獅子頭”

〜あらゆる木工品を手がけて半世紀以上〜

VOL.23

彫刻工芸中尾 中尾 芳雄(彫号 中尾芳山)さん

出雲地方の多くの神社に古くから伝わる「獅子舞」。
祭礼で獅子舞を披露する際に用いられるのが、獅子の頭部をかたどった「獅子頭」です。

彫刻工芸中尾の獅子頭は、口を開けると連動して耳も動く精巧な作りが特長で、
『出雲獅子頭』として島根県ふるさと伝統工芸品に指定されています。

出雲獅子頭の他に神楽面や神棚、御宮、仏像、看板、家具、茶道具、将棋の駒入れ…
木工に携わって半世紀以上の名匠に『作れないものはない』そうです。

島根県総合美術展の彫塑部門で知事賞の他、多数の受賞歴をもつ彫刻工芸中尾の中尾芳雄さんにお話を伺いました。

木工職人として、ものづくりへかける思い

木工職人の道を選んだきっかけは
親が指物師や大工のようなことをしていた影響で、子どもの頃からナイフを使ってものづくりをするのが得意でしたね。
家具製造会社で働いていたので、木工の技術はある程度身についていたところに、出雲大社の吉兆さんで使う神楽面の修理を頼まれたのがきっかけで、仕事の傍ら木彫刻を学び始め、日本画の先生のもとでデッサンも習って、仏像の彫刻にも挑戦するようになっていきました。
その後、木工職人として独立したんです。
ものづくりの際にどのようなことを心がけていますか
立体のものは、まず粘土で原型を作ってから制作に入るようにしています。
原型で寸法を取ってから木に向かうと、間違いなく出来上がります。
一番大事なのはお客様に満足してもらうことなので、きちんと仕上げることですね。
それから、昼間は来客があって集中できないので、夕方から作業を始めます。
本気になって集中しないと、怪我をしたり失敗したりしてしまいますので。
どのようなときに木工職人として楽しさを感じますか
完成したものを手に取ったときは、最高の喜びがあります。
例えば陶器は出来あがりに満足できなくても修正ができませんが、木は満足できるまで修正した上での「完成」なので、喜びも大きいですね。
出雲のあちこちの神社で、自分が作った獅子頭をつけて舞っているのを見ますし、お店や旅館、神社などの看板もたくさん制作しましたから、至る所で見かけます。
外出した先々で自分の作品を見かけると、やはり楽しいですよ。
一番好きな仕事はなんでしょうか
獅子頭を作るのが一番楽しいです。
氏子からの依頼で作る獅子舞用の大きな獅子頭と、家庭で飾るための小さな獅子頭があります。家庭用のものは新築祝いや古希祝いなど贈答用に買われる方が多いんですよ。
制作期間は大きいもので2ヶ月、小さいもので2週間ほどかかるんですが、出来上がったときは嬉しいですね。
注文が絶えないのはなぜでしょうか
先日も広島の会社の看板の注文が入りましたが、僕が作った看板をどこかで見られたんでしょう。
宣伝などは一切していませんが、人づてに注文が来るんですよ。
人が見て納得するいい仕事をしていけば、それが評判につながっていくと思います。
ものづくりに好奇心は必要でしょうか
もちろん必要です。
好奇心がないと、新しい素材に目を向けたり、新しい作り方を考案することができませんよね。
例えばこの木の茶匙は、三瓶の埋没林の木を使ったもので、まっすぐな木を曲げて作っているんですが、そうすると折れることがありません。
他の職人はとても作らないようなものですが、僕は好奇心が旺盛だからこのようなものも作ります。

伝統工芸品の未来について

「出雲獅子頭」は島根県ふるさと伝統工芸品に指定されていますね
周りの人の助言もあって応募しまして、2005年に伝統工芸品の指定を受けました。
「なぜ名前が『出雲獅子頭』なのか」と聞かれますが、他所の獅子頭との違いを表すため。
特長は獅子頭に付いている耳で、口を開閉すると耳も動くものは、全国でも僕しか作っていません。
耳が動くところは、獅子舞をする人たちにも喜ばれているんですよ。
伝統工芸品の継承について
後継者がいないのが悩みですね。
他県からも習いに来る人はいますが、なかなか技術を習得することが難しいです。
獅子頭に関しては、彫るだけではなく塗物なので、塗料の使い方を知らなければできません。
刃を研ぐことができなければ木は彫れないし、絵が描けない人には面は作れません。
僕の真似をして作ってみたいと来られる人は、大工さんなど職人が多いですが、2〜3回習いに来てやめてしまいます。
うちに他県からの注文が入るのも、全国的に伝統工芸の職人が少なくなっているためでしょうね。
これからも制作活動を続けられますか
体が動く限りは、「生涯現役」として頑張ってやっていきたいと思っています。
やりたいことはまだいっぱいありますし、もう一回作ってみたい作品もありますからね。

彫刻工芸中尾について

半世紀以上にわたって木工職人として制作を続けてきた中尾さん。
これまで手がけた木工品には、出雲大社の神職が神事の際に右手に持つ木笏や、消防団の纏も含まれているとか。
ご本人の「作れないものはない」というお言葉を改めて実感しました。

中尾さんが作られた看板の写真を見せていただきましたが、出雲市内市外を問わず見たことのある看板がたくさんあることに驚きました。
看板の他に寺社の柱や彫刻、木造家屋の妻飾りなども手がけておられるので、実は私たちはさまざまな場所で、知らないうちに中尾さんの作品を目にしているのでしょう。

実際にお面や彫刻、指物の箱などの木工品を目にすると、それぞれの作品の随所に光る匠の技に圧倒されてしまいます。
なかでも「首里城」という華やかで細緻な作品は、展示会に出されるたびに大きな反響があったそうで、なるほどと思わせる存在感を放っていました。

木工の名匠、中尾さんの技を受け継ぐ後継者が育つことを、切に願うばかりです。

工房では中尾さんの作業の様子を見学できるほか、可愛らしい置物の彫刻体験もできます。
最高峰の工芸品を生み出す匠の技に、ぜひ触れてみていただきたいです。

商品ラインナップ

プロフィール

  • 彫刻工芸中尾
  • 〒693-0015
  • 島根県出雲市大津町朝倉1-9-16
  • 【TEL】0853-23-0666
  • 【営業時間】8:00〜17:00
  • 【定休日】日曜日

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