しまねの職人

【奥出雲酒造】奥出雲町のお米と水から醸される純米地酒

〜可能性に挑戦しつづける若い酒蔵〜

VOL.29

奥出雲酒造 寺戸 史浩さん

山々に囲まれた自然豊かな奥出雲町は島根県の東南端に位置し、かつて「たたら製鉄」で栄えた町です。
島根の米どころでもあり、“東の魚沼、西の仁多”とも称されるコシヒカリ「仁多米(にたまい)」の産地として知られています。

「奥出雲酒造」は2004年、大正時代から続く酒蔵を奥出雲町が買収、の第三セクターとして誕生しました。
伝統にとらわれず柔軟な発想で可能性に挑戦しつづける姿勢は、若い酒蔵からこそ。

新しいアイデアで酒造業界の未来を拓く、奥出雲酒造の寺戸さんにお話を伺いました。

奥出雲酒造のこだわり

奥出雲酒造の特徴を教えてください
奥出雲酒造の酒造りとしましては、米だけのお酒、純米造りのお酒にこだわっています。
お米はすべて地元の奥出雲町で採れた酒米とコシヒカリを使用し、酒米の「奥出雲ブランド」、仁多米コシヒカリの「仁多米ブランド」、この2種類を軸に清酒、濁酒(どぶろく)、焼酎等の製造販売を行っています。
コシヒカリのお酒は珍しいですが、どのような味わいですか?
仁多米は食べるお米としては非常においしいのですが、お酒にするとそのおいしさは雑味になりやすい。そこを我々の醸造技術ですっきりとした飲み口の良い仕上がりになったのが「仁多米ブランド」のお酒です。
バランスの取れたすっきりとしたタイプのお酒になっています。
酒米を使用した「奥出雲ブランド」のほうは、島根県に昔から受け継がれている濃醇辛口タイプの味わいで、しっかりとしたフルボディタイプのお酒を醸しています。
仁多米ブランドに対するお客様の反応は?
島根のお酒は非常に濃くて、辛口タイプのしっかりとした味わいのものが多いといわれています。
それに対してコシヒカリを使用した我々の「仁多米ブランド」のお酒はすっきりとした味わいで、『食用のお米でもこんなにおいしいお酒ができるのか』という評価をいただいています。
数々の賞を獲得していることについて
我々が自信をもってお酒造りを行っている中で、外部の第三者機関から評価をいただけることは非常に喜ばしいことですし、お酒を造るうえで大きな励みにもなっています。
「仁多米コシヒカリ純米大吟醸」に関しましては、2017年にニューヨークで開催されたワインコンテスト『Ultimate Wine Challenge』で最高賞である審査員長賞(Chairman's Trophy)を獲得したことで、海外でも話題になりました。
「奥出雲ブランド」に関しましても、島根県新酒品評会でも5年連続入賞しており、日々良い酒を醸せる
よう、酒造りを追求しております。
お酒を含めて開発中の新商品はありますか?
大きな柱として清酒がありますが、その中では東京農大が花から分離した花酵母を使用したお酒の発売、お酒以外のところでは、製菓会社との連携で『やわ肌 白いロールケーキ』『やわ肌 フィナンシェ』などを開発。
また、精米の工程で出た米ぬかを使用したレジ袋「米ぬかECOバッグ」を作成し販売しています。

島根県産業技術センターと共同開発した化粧品『KAMOHADAフェイスマスク』は、日本酒に含まれる美肌成分「αエチルグルコシド(α-EG)」を抽出し粉末にした「日本酒濃縮エキスパウダー」を配合など、現在は美肌関連の新アイテムが販売されました。

お酒は米と米麹、水を発酵させることによって造られますが、発酵にはいろいろな要素要因が含まれてきます。
酒造りをしている我々は、それを「醸す」と表現しますが、「醸す」には”何かを作り上げる””醸成する”という意味があり、お酒を主軸にしながらそこから派生して何か新しいアイテムを作り出せないか、いつも考えています。

日本酒への思い

おすすめの商品を教えてください
「奥出雲の一滴Onedrop」というシリーズ化した商品があります。
それぞれ「改良雄町」「改良八反流」「五百万石」という酒米を使用したお酒です。
同じスペック、同じ配合、ほぼ同じ温度経過をとりながら、酒米の違いで味わいの違いを楽しんでもらえるお酒になっていて、さらに食事をしながら飲んでいただくのにぴったりのジューシーな味わいに仕上がっていますので、お食事、お酒とともに、その場の空間を楽しんでいただきたいと思います。
商品を飲んだお客様にどんな気持ちになってほしいですか?
お酒はその場の雰囲気を楽しんでもらうためのアイテムの一つで、あくまで主役はその場にいるお客様です。
日本酒に関連して「ハレの日」という言葉をよく聞きますが、「ハレの日」=「特別な日」にふさわしい場を演出することができる日本酒として、おいしさはもちろん、楽しい雰囲気を演出するアイテムのひとつとしての日本酒を造りたいと思っています。
お酒初心者や女性におすすめの日本酒の新しい飲み方などは?
日本酒は伝統や格式を重視しがちですが、もっと柔軟な飲み方、楽しんでいただける飲み方があると考えます。
お酒の輸出を通して外国の方にも学ばせてもらうことも多く、例えばカクテルでは、ラムではなく日本酒をベースにコアントローやフレッシュライムジュース、スペアミントなどを加えたモヒートもおいしいです
また、少し冷たい日本酒にユズやスダチを絞って香りの爽やかさを楽しむなど、今後はいろいろな飲み方を普及させていきたいですね。
2020年にISO22000を取得されたことで変化はありましたか?
日本酒業界はアルコールだから安全だと言われてきましたが、食の安全が世の中で注視されてきました。
「HACCP(ハサップ)」による衛生管理の義務化が決められたときに、我々はさらに上の食品安全マネジメントシステムに関する国際規格である「ISO22000」を取得しようということで、社員が取り組みました。
社内でのルール作り、基準作りなどを社員が行い、それを守ることで食の安全管理をシステム的に構築したことを証明するものが「ISO22000」です。さまざまな記録を取る業務が必要なため従業員の負担も増えましたが、これを取得したことで、特に海外の新規輸出先は増えました。
今後の目標や未来について
もともと奥出雲町はたたら製鉄に由来する資源循環型農業によって栄えてきた地域です。
砂鉄を得るために山々を切り崩した跡地は棚田に再生され、鉄製品の運搬や農耕に使われてきた牛がブランド牛「奥出雲和牛」の基礎になり、その牛ふんや山草を水田の堆肥としてブランド米「仁多米」が生産されています。
我々もその伝統を受け継いで、地元奥出雲町産の酒米とコシヒカリを使って酒造りをするとともに、製造過程で出る米ぬかを利用した「米ぬかECOバッグ」なども作っています。
地域のお米を使用してお酒を造ることでこの地域がより発展していく、また副産物を有効活用した商品を作ることで環境を守っていく、そういったものづくりをしていければと思っています。

奥出雲酒造について

奥出雲酒造と同じ敷地内にある道の駅「酒蔵奥出雲交流館」にお邪魔しました。
こちらでは奥出雲酒造のお酒をはじめとする各種商品のほか、“西の横綱”と呼ばれるコシヒカリ「仁多米」や、仁多米を使った餅や味噌などの加工品をはじめ地元の特産品などを購入することができます。

うれしいのはお酒の試飲ができること。
「奥出雲の一滴Onedrop」を試飲させていただきましたが、寺戸さんのお話の通り「改良雄町」「改良八反流」「五百万石」それぞれの特徴を感じながら試飲するのは、とても楽しい体験でした。
720ml×3本の飲み比べセットがオンラインショップでも販売されていますので、ぜひ試していただきたいです。
奥出雲酒造の人気商品、麹を発酵させたノンアルコールの「あまざけ」を使った「あまざけソフト」も絶品。
想像していたような癖もなく、濃厚でとてもおいしいソフトクリームでした。

酒蔵を案内していただくと、発酵中のお酒の甘くまろやかな香りが。
仕込み中のお酒を攪拌する“櫂入れ”では、バナナを彷彿とさせる香りがしてきます…。
“発酵”という過程の複雑さ、“醸す”という言葉の意味について、少しだけ触れた気がしました。

本年4月30日には3年ぶりに開催される”蔵参観”では、酒造りの現場を見学できます。
酒蔵奥出雲交流館でも限定酒の販売や秘蔵酒の量り売り、酒粕の販売などのイベント が催されるので、FacebookやInstagramをチェックしてみてくださいね。

商品ラインナップ

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