しまねの職人

【おかや木芸】時を超えて受け継がれる「本物」の木芸品

〜伝統と現代性が融合した新しいデザイン〜

VOL.17

おかや木芸 岡 英司さん

見渡す限りの田園風景の先に穏やかな山並みが連なる出雲市斐川町。

宍道湖と斐伊川に囲まれた自然が豊かな町で
70年にわたって木芸品を作り続けている工房があります。

「本物」を作るために黒柿や栗、桜、けやきなど国産の銘木にこだわり
原木の仕入れから制作、仕上げまですべてを担う職人たちの集団です。

職人から職人へと受け継がれてきた技術を大切に守りながら
伝統工芸であることに留まることなく新しいデザインを積極的に採用し
特に黒柿の現代的な木芸品は国内外の愛好家に支持されています。

おかや木芸の五代目、岡英司さんにお話を伺いました。

おかや木芸の特長や歴史について

おかや木芸の特長とは
この地域で育まれてきた「黒柿」という素材があります。
樹齢数百年の柿の古木に、稀に墨で描いたような紋様があらわれるものがあり、それを「黒柿」と呼んでいますが、奈良時代から珍重され、正倉院にも黒柿の木工品が数多く残されています。
この黒柿は冬場の短期間しか伐採できない上に、切ってみないと黒柿かどうか分からないため、大変に希少で入手が難しい素材なんですが、私たちは黒柿に専門的に取り組んでいる全国でも数少ない工房です。
私たちの仕事のテーマは、現代の暮らしに合うモダンなデザインによって、黒柿の魅力を引き出していくことだと考えています。
工房を継いだ当時を振り返って
継いで40年ほどになりますが、その時々の幸運な出会いが、新しい歴史を開いてくれています。
最初の出会いは、クラフトデザインの世界との出会いです。
当時、東京に日本クラフトデザイン協会という団体があり、そこで漆芸デザイナーの中村富栄さんと出会い、現代的なデザインに目覚めました。
それから、黒柿や栗の木の素材を提供してくださる方と初めてお会いしました。
その後、東京のクラフト・センター・ジャパンで発表会をした際に、美術大学の先生やデパートのバイヤーの方と出会ったことが、現在の仕事に繋がっています。
また、松江藩七代藩主・松平不昧公の墓所である月照寺宝物殿の黒柿の箱や、不昧公お抱えの名工・小林如泥(こばやしじょでい)の黒柿の銘品を見て、このような島根の優れた木工品を復刻し継承していくべきだと思ったことが、今の仕事の勉強をするきっかけになっています。
復刻を手掛けるなかで、かつての名工たちの苦労や工夫、制作のポイントが分かってきて、それが現代的なデザインを考える際に生かされています。

ものづくりへの想い

デザインのアイデアはどこから
“日常生活で使うもの”を基本にデザインを考えます。
例えば、作り始めて30年近くになる木製のスプーンは、鍋料理を取り分ける小皿に合わせる木製の洒落たスプーンがほしいと思ったことがきっかけでした。
実際に料理店からリクエストがありましたし、素材にこだわられるお客様からも要望があり、形になりました。
最初はけやきのレンゲでしたが、現在は桜や黒柿も含めて様々な種類のスプーンを作っています。
「コブつき指圧棒」は、やはり30年ほど前に日経新聞の「都会で一人暮らしをしている人は肩が凝っても肩たたきができない」という記事からアイデアを得たもので、テレビに取り上げられたこともあり、一時は爆発的に売れました。
また、お客様の「和室に置くテーブルが欲しい」というご要望に応えてデザインした「和室テーブル」という商品もあります。
伝統的な技術や素材を生かしながら、今の時代に合うものを考えなくてはいけません。
印象に残っているお客様の声は
あるお客様から、亡くなられた奥様のご趣味だった俳句の本を、手元に保管するための家具が欲しいというご依頼がありました。
なんとかお応えしようと、「メモリアルボックス」という名前でキャビネットを作ってご案内したところ、「自分の考えていた通りのものだ」と涙を流して喜ばれ、制作した職人も非常に感激したということがありました。
そんな風に喜んでいただけるものづくりが出来ることが、何よりもうれしいです。
伝統工芸に携わることについて
島根県では出雲石灯ろう、雲州そろばん、石州和紙、石見焼が国の伝統工芸品に指定されていますが、例えば石灯ろうの需要が大きかったのは、住まいに日本庭園があった時代です。
この30年ほどで住まいが洋風になり、石灯ろうの需要も減ってきています。
そろばんや和紙にも同じことがいえるでしょう。
このような状況から、伝統工芸品とは衰退していくものだと考える人もいますが、伝統的なものから大きな産業が生まれた例は幾つもあり、例えば銅器で有名な町に大手金属メーカーがあったり、焼き物で知られる町が今ではインテリアメーカーの一大拠点になっています。
伝統工芸をベースに現代的なアートを創造する芸術家もいますし、伝統工芸という豊かな土壌からは、様々な形で新しいものづくりが芽吹く可能性があるわけです。
伝統工芸は古いだけのものと決め付けずに、そこから新しいものを生み育てることが大切です。

おかや木芸のこれから

今後の目標や挑戦したいことは
まだ計画段階ですが、世界的なオーディオメーカーと協力して、黒柿を使ったアンプやヘッドホンの制作を考えています。
それから、黒柿の工芸品は日本古来のものと考えがちですが、元々は遣唐使によって唐から伝来し、仏教や茶道などと結びついて、1400年の時を超えて受け継がれてきたものなんですね。
中国の文化人が、かつて自国にあって今は途絶えてしまった黒柿の文化を再発見するために、日本に訪れていますし、韓国の李朝の家具にも黒柿のものがあります。
そう考えると、黒柿の工芸品というのは東アジア全体の自然と人間との関わりの中から生まれて、私たちの世界観には国を超えて共通している部分があるのではないかと。
東アジア全体で共有できるような、美しさの原点のようなものを、いつか黒柿で作ることができたら…という想いがあります。
伝統工芸品を若い人にも使ってもらうために取り組んでいることなど
若い人向けにアイテムを見直す必要があります。
娘が手掛けている作品に「御朱印帳」があるんですが、これは年配の方より、神社やお寺をあちこち巡る若い人に向けたものです。
作り手も若い気持ちを持ってお客様のニーズを感じ取り、応えていくことが求められます。
ワークショップについて
昨年3月にワークショップスタジオを作ったんですが、そこで小さなお子様も含めて使い手であるお客様が、制作者や制作工程、素材などに実際に触れることで、私たちの仕事の理解者が増えていくのではと期待しています。
昨年5月に親子木工教室を開いたときは、親御さんと小学生のお子様が6、7組来られて椅子を製作したんですが、大変好評で、また開いてほしいという声をいただきました。
そのときに、親子で一緒に何かを作るというのは素敵なことなんだなと思いましたね。
これまでものづくりに縁がなかった方も、ぜひワークショップで木工を体験してもらいたいです。

おかや木芸について

おかや工芸が専門的に取り組んでいる黒柿の木芸品。
聞くところによると、黒柿は一万本に一本あるかないかという銘木中の銘木で、大変に希少で高価な素材だそうです。
工房の隣の直営店では、黒柿のボールペンや器、カトラリー、アクセサリー、茶道具、家具…伝統的なものから現代的なものまで、実に様々な木芸品を目にすることができます。
どれも黒柿特有の美しい木目が印象的で、機能性を併せ持った洗練された品々は、思わず手を伸ばして触れてみたくなります。
さらに直営店では、自社のものだけではなく、他の工房の家具や雑貨なども取り扱い、店内に併設されたギャラリーでは、月ごとに作品展を企画し、「手しごとの素晴らしさ」をコンセプトに染織や陶芸、アクセサリーなど、分野を問わず多彩な作品を紹介しています。

岡さんのお話を伺いながら工房や直営店を見学していると、みなさんが“ものづくり”を心から愛し、その技を未来へ残していこうと奮闘されていることが伝わってきます。

伝統と現代性を融合した新しいデザイン、これからどんな作品が生まれるのか、おかや木芸から目が離せません。

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