しまねの職人

【米田酒造】蔵に響く「生命の音」に耳を澄まし、お米の優しさを届ける

~「変えない」軸と、時代に合わせ進化する「アップデート」の精神~

Vol.60

米田酒造株式会社 斎藤 寛之さん

松江の城下町で明治29年に産声を上げた米田酒造。
「豊の秋(とよのあき)」という、実りへの感謝が込められた名を持つ日本酒は、今もなお地元の食卓や祭りのひとときを彩っています。
伝統を重んじながらも、現代に合わせたアップデートを欠かさない、その酒造りの背景にある想いを伺いました。

明治から続く「研鑽」の精神と、名前に込めた願い

米田酒造さんの歩みについて教えてください
創業は明治29年(1896年)です。かつて末次魚町と呼ばれた現在の東本町でスタート。今もなおそこにあります。その後、規模の拡大に伴い現在の場所へ蔵を増設しました。このあたりはかつて商人街だったと聞いています。

明治時代に始まった酒蔵ですので、初代は「これからの時代のより良いお酒を」と、近代化に向けて非常に熱心に研究を重ね、研鑽を積んでいたそうです。
代表銘柄である「豊の秋」という名前には、どのような由来があるのでしょうか
その名の通り、五穀豊穣への願いが込められています。お酒はお米から作るものですから、秋の実りに感謝し、豊作を祈る。当時の造り手たちが、お米という自然の恵みをいかに大切に思っていたかが伝わる名前だと思います。

「ふっくら旨く、心地よく」お米そのものを感じる味わい

「豊の秋」の味わいの特徴を教えてください
私たちは「ふっくら旨く、心地よく」というキャッチフレーズを大切にしています。口に含んだときに、お米の優しい甘みがふわっと膨らんで、すっと消えていく。まるで「お米そのものを食べている」かのような、落ち着きのある味わいを目指しています。

お酒に詳しくない方にも、飲んだときに「ほっと安らぐ」、そんな心の落ち着きを感じていただけたら嬉しいですね。
こだわりの素材である「水」と「米」についても伺えますか
お米は主に島根県産の酒米を使用し、大吟醸などの高級酒には兵庫県産の山田錦を使っています。

そして水は、松江の郊外にある「忌部(いんべ)の水」です。忌部は古代、朝廷に献上する勾玉を清めていたとされる神聖な場所であり、近代では松江市の水道発祥の地でもあります。古代から現代まで、松江の人々の暮らしに馴染んできたお水。だからこそ、地元の皆様の口に合うお酒が醸せるのだと考えています。

松江の食文化を支える、幻の「地伝酒」の復活

米田酒造さんといえば、珍しい「地伝酒(じでんしゅ)」も造られていますね
地伝酒は、清酒とみりんの中間のような性質を持つ醸造酒です。かつて出雲地方で親しまれていましたが、戦時中に一度途絶えてしまいました。

平成元年に「地元の特産品を復活させたい」という商工会議所の若手たちの熱意により、弊社で復活させました。最大の特徴は、もろみに「木灰」を入れることですが、その製法は秘伝とされており、再現するまではかなりの時間を要しました。
地伝酒はどのように楽しむのがおすすめですか?
地伝酒は魚の煮付けの臭み消しや、お肉を柔らかくする料理酒として非常に優秀です。松江名物の「あごのやき」にも使われており、「豊の秋」との相性も抜群です。

また、松江はおでんが有名な町ですが、そのお出汁に地伝酒を使ったり、おでんをつつきながら「豊の秋」を温かい燗酒で楽しんだり。肩の力を抜いて、気の置けない仲間たちとわいわい楽しむシーンに、私たちの酒が寄り添っていれば最高ですね。

蔵に響く発酵の音、そしてこれからの挑戦

酒造りの中で、やりがいを感じるのはどんな瞬間でしょうか
冬の寒い時期、仕込みに入って酵母が動き出すと、静かだった蔵の中に「シュワシュワ」と発酵する音が聞こえ始め、香りが充満してきます。あの生命の活動を感じる瞬間は、何度経験しても非常に楽しく、心が躍ります。
これからの展望を聞かせてください
これまで「変えないこと、変わらないこと」を大切に守ってきました。その軸はこれからも揺らぎませんが、同時に現代の感覚に合わせたアップデートや、新しい挑戦も必要だと思っています。伝統を守りつつ、次の一歩を踏み出していく。そんな歩みを続けていきたいですね。

インタビュー中、最も心に残ったのは、お酒が育つ様子を語る際の「蔵の中にシュワシュワと発酵する音が聞こえ始めると、非常に楽しくなる」という言葉でした。明治から続く長い歴史の中でも、命が宿るようなその瞬間に喜びを感じる純粋な情熱が、今も変わらず酒造りの真ん中にあるのだと感じました。

「お米そのものを食べているような味わい」という表現のとおり、そこにあるのは五穀豊穣への感謝と、飲む人の心に寄り添う優しさです。一度は途絶えた地伝酒を地域の熱意で復活させたエピソードからも、いかに米田酒造さんが松江の食卓と深く結びついてきたかが伝わってきます。

伝統を大切に守りながらも、「現代に合わせたアップデートを」と語る柔軟な姿勢。そんな蔵人の想いが詰まった一杯を、ぜひ肩の力を抜いて楽しんでみてください。おでんの湯気の向こう側に、ふんわりと心地よい時間が広がるはずです。

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