しまねの職人

【手打ちそば千蓼庵】邑南そば街道を牽引する手打ち十割蕎麦

〜邑南そばによる地域おこしの拠点〜

VOL.16

手打ちそば千蓼庵 岩谷 克司さん

2019年秋、県外の常連客も多かった大田市三瓶町の有名そば店が
邑智郡邑南町に移転オープンしました。

築60年の古民家をリノベーションした店で供されるのは
この町で栽培された在来種のソバを使った手打ちの十割蕎麦。

実は店主は、ファンを増やしつつある「邑南そば」の生みの親。
店には「邑南そばの学校」も併設され、講師としてそば職人の育成も担っています。

「邑南そば」を通して人と町を育み、地域活性を盛り上げる
千蓼庵の岩谷さんにお話を伺いました。

千蓼庵の歴史

蕎麦屋を始めたきっかけは
市役所の農林課にいたときに、蕎麦を活用した農業振興に2年ほど携わり、全国の蕎麦屋さんと交流しましたが、当時は自分が蕎麦屋になるとは思いもしませんでした。
その後、自分でも蕎麦打ちやソバの栽培もするようになり、三瓶在来種ソバの復活にも携わっていくことになりました。
15年間そんな風に蕎麦と遊ぶうちに、プロとしてやっていくのも面白いかなと思い始め、きれいな地下水が豊富な三瓶でお店を始めました。
大田市三瓶から邑南町へ移転した理由は
あるとき、登山と温泉と蕎麦がご趣味の「邑南そば街道」の石原さんが店に来られて『邑南町でお店を出してもらえないか』と言われたんです。
最初はお断りしましたが、交流を続けながら邑南町の地域おこし協力隊員が蕎麦屋を開店する際に一緒にプロデュースしたり、「邑南そばの学校」の講師をしたり、邑南町長にも誘っていただいたりするうちに、ありがたい話だな、もう一度挑戦してみようかなと気持ちが変わっていきました。
当時三瓶には、三瓶在来種ソバを使った蕎麦屋が何軒もできていて、自分の役割は果たしたという思いもありました。
三瓶では11年間営業し、邑南町へ来て4年経ちます。
蕎麦打ちの技術はどのように習得されましたか
独学ですが、市役所時代に全国のお蕎麦屋さんや蕎麦の神様と呼ばれる方と交流し、一流の蕎麦職人の蕎麦打ちを見て、あらゆる蕎麦に触れてきたことが大きいです。
自分でソバの栽培もやってきて、製粉までの基本的な知識も含めて独学でやってきたことが、今の自分の打つスタイルに繋がっていると思います。

蕎麦に対する想い

お客様からの声で印象に残っていることは
手挽きの十割蕎麦は製粉が大変で、機械で製粉してみた時期があるんですが、広島からのお客様に『味が変わりましたね。実は死ぬほど手挽きの蕎麦が食べたかったんです。手挽きが大変なら私が挽きに来ますから』と言われたことが、最近では印象的でした。
また29年前、中国の寧夏から持ち帰ったソバを三瓶山で栽培して粉にして食べたときに、子供たちが『美味しい!こんな透明な蕎麦があるんだ!』と大変に喜んだ姿が印象に残っています。
蕎麦を通してお客様に伝えたいことは
蕎麦を食べに来られるお客様は、大きく2通りあります。
蕎麦だけではなく天ぷらやお豆腐なども楽しまれるお客様と、蕎麦だけを修行僧のように食べられるお客様。
「たかが蕎麦だが、されど蕎麦」、純粋に蕎麦そのものを楽しんでいただくのがいいと思います。
ご自身で打つ蕎麦へのこだわりについて
お客様に喜んでいただけて、自分も納得できる美味しい蕎麦屋という点では、そこに到達しつつあると思います。
ソバの実に含まれる揮発性の高い香りの成分を、食べる段階までいかに残していくかについては、香りを出すところまでは達成しているかなと。
また粗挽きの十割蕎麦はプチプチと千切れるのはいいんですが、やはりのど越しよくツルッと食べられて、飲み込んだときに鼻に抜ける香りと、口の中に残る香りと旨みがある……そういう十割蕎麦を求めています。
それから、麺の表面に点々と“「ホシ」が飛ぶ蕎麦”を追求する蕎麦屋が多いんですが、私もその世界に足を踏み入れつつありますね。
こだわりや求めることは今後まだまだ変わっていくだろうし、それが楽しみでもあります。

邑南そばのこれから

邑南そばとは
「出雲そば」は食べる文化、「三瓶そば」や「邑南そば」は食べる文化はもちろんですが、“生産地としての誇りがある文化”だと思います。
「邑南そば」とは、邑南町のソバ農家が生産する三瓶在来種や東屋在来種等の在来ソバであること、全国に流通できで十割蕎麦として成り立つ品質であること、そして邑南町の蕎麦屋が提供する地産地消の蕎麦であること、と定義しています。
邑南そば学校にはどのような生徒さんが来られますか
地域おこし協力隊員で『実際に蕎麦屋を立ち上げたい』というご夫婦に手ほどきをしたことがありますし、『割烹料理に蕎麦を取り入れたい』という料理屋さんもいらっしゃいました。
町外から来られ浜田市で蕎麦屋を始めた方、蕎麦をライフワークにしたいという方、子育て真っ最中の方など、色々おられます。
生徒さんで粗挽きの十割蕎麦を打てる人はまだいませんが、いつでもプロになれるような師範級の人は何名かおられますよ。
邑南そば街道の生みの親として
全国に「そば街道」と呼ばれ賑わう地域がありますが、「在来種ソバの生産地である」「こだわりの蕎麦屋が軒を連ねる」「全国の蕎麦好きが訪れる」「結果として地域が活性化する」という共通点があります。
千蓼庵を拠点にソバ/蕎麦を通じて邑南町を活性化しようということで、“邑南そば街道”プロジェクトの立ち上げに関わりました。
私は蕎麦についての知識、技術、栽培などの部分で、人と人を繋ぐ役割を担っているつもりです。
もともと邑南町のソバ栽培面積は0に近かったのが、邑南そば街道がスタートして5年ほどで20ヘクタールにまで増えましたから、すごいことだと思います。
後継者や今後の目標について
邑南町では地産地消をテーマに蕎麦に取り組んでいますので、地元のソバ農家の気持ちを分かったうえで蕎麦屋を経営できる人、向上心を持って蕎麦を探求していける人に継いでもらいたいですし、天ぷらなど蕎麦以外の料理も受け継いでいってほしいですね。
県外の方でもいいのですが、できれば千蓼庵のある日和(ひわ)地域の方で店を繋げていきたいので、農家のスタッフに蕎麦の湯がき方をしっかり覚えてもらいましたし、協力隊員の方には天ぷらの揚げ方を少しずつ任せられるようになってきました。
そんな風に地域に向けて技術を伝えていくこと、後継者を探すことが、店についての目標です。
自分の中の目標としては、手挽き蕎麦を完成形にもっていくことですね。

千蓼庵について

古民家に鮮やかなオレンジ色の暖簾が目印。
話し上手な岩谷さんとスタッフが立ち働く店内は、和やかな雰囲気に包まれています。

岩谷さんこだわりの手挽き十割蕎麦を作る過程を見学させてもらいました。
感動したのは、蕎麦粉に水を入れた瞬間に立ち上った蕎麦の香り。
これまで経験したことがないほど強く芳ばしい香りでした!

機械製粉と手挽き、それぞれ蕎麦粉をこねて丸めたものを見比べると、手挽きの方が粒が粗く香りも強かったです。

手回しの石臼で製粉する作業に時間がかかること、粗い蕎麦粉は打つのも切るのも難しく千切れやすいことなどから、手挽き十割蕎麦は一日5食限定。

その手挽き十割蕎麦をいただきました。
まず、箸で口に運ぶ段階で蕎麦の香りに気づき、口に入れると鼻まで蕎麦の香りがいっぱいに広がって……香りを楽しみたくて、つゆも塩もつけずに蕎麦のみで食べきったのは初めてです。

天ぷらなども食べてみたい、遠方でも通ってみたい、そう思わせてくれるお店です。
これまで抱いていた蕎麦のイメージを完全に覆す邑南そばを、もっと多くの方に知ってもらいたいと感じました。

商品ラインナップ

  • 三瓶在来種の天日干しを石臼手挽きした十割蕎麦

プロフィール

  • 手打ちそば千蓼庵
  • 〒696-0103
  • 島根県邑智郡邑南町日和904番地
  • 【TEL】0855-97-0019
  • 【FAX】0855-97-0019
  • 【営業時間】金曜日、土曜日、日曜日、祝祭日 11:00~14:00  ※営業日の変更、臨時休みあり (1月、2月は金曜日、祝祭日も休み)
  • 【HP】https://senryouan.com

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