しまねの職人

【めにーでーる】知夫里島の「温もり」を焼く、移住パティシエの真心

〜「ない」から始まった、島の人と紡ぐ『甘い』絆〜

Vol.58

めにーでーる 稲澤 千夏さん

島根県隠岐諸島の一つ、知夫里島(知夫村)。 広大な自然と温かな人々に惹かれ、この島に移住した一人のパティシエが作るお菓子が、今や島の枠を超えて多くの人に愛されています。
今回は、知夫里島で「めにーでーる」を営む稲澤千夏さんに、島でお菓子作りを始めたきっかけや、商品に込めた想い、そしてこれからの展望についてお話を伺いました。

島の人たちの「困った」が、お菓子作りの始まりでした。

「めにーでーる」が誕生したきっかけ

「めにーでーる」が誕生したきっかけについて教えてください
もともとは兵庫県に住んでいたのですが、Iターンで知夫里島にやってきました。実は、最初からお菓子屋さんをやるつもりで来たわけではなかったんです。

島に引っ越してきて驚いたのが、洋菓子店が一つもなかったこと。お茶菓子や手土産に困っている方が多くて。私はずっとパティシエをしていたので、「何か作ってよ」と声をかけていただいたのが始まりでした。それで「じゃあ、シュークリームでも」と作ってみたら、皆さんが想像以上に喜んでくださって。

そこから注文をいただくようになり、お祭りで出したりしていくうちに、「営業許可を取って本格的にやってみよう」という話に繋がっていきました。村からも「特産品を作れないか」と相談をいただき、今の形になっていったという感じです。
なぜ移住先に知夫里島を選ばれたのでしょうか?
私も夫も中国地方の出身なので、いつかは戻りたいねと話していました。UIターンのフェアに参加した時、たまたまブースで流れていたテレビに知夫里島の景色が映っていたんです。その広大な自然を見て「こんなところに住めたらいいね」と。

そこでお話を伺ううちに、畜産のお仕事を紹介していただいて。動物も好きですし、子どもたちとの時間も大切にできるかなと思い、移住を決めました。

島の恵みと、顔の見える「あの人」のために。

「めにーでーる」さんにはどんなお菓子があるのでしょうか。看板商品を教えてください。
一番の看板商品は「れもんけーき」ですね。あとは地元のお豆腐を使った「とうふどーなつ」、地元の玄米を使った「玄米クッキー」などがあります。最近では、「クロモジ」という島で古くから親しまれている木を使ったアイスクリームも作っています。

できるだけ国産のもの、そして体に優しいものを使いたいと思っています。お砂糖はてんさい糖、小麦粉も国産を使用しています。

あとは、やっぱり知夫里島産のものですね。「クロモジ」は、この村では昔からお薬代わりに飲んだり塗ったりしていた身近な植物なんですが、紅茶のように香りがすごく高いんです。これを贅沢に使ったアイスクリームは、島の香りが楽しめますよ。
「れもんけーき」や「とうふどーなつ」が生まれたのにも、島ならではのエピソードがあるそうですね。
「れもんけーき」は、ご近所の方が「レモンを育てているんだけど、何かに使えないかな」と持ってきてくださったのがきっかけです。「じゃあ、作ってみるね」とお出ししたら、すごく気に入ってくださって。

「とうふどーなつ」は、海士町にある有名な「亀田商店」さんのお豆腐を使っています。何かお豆腐で商品ができないかというお話と、ちょうどドーナツの注文をいただいたタイミングが重なって。試作してみたら評判が良くて、そのまま商品化が決まりました。

どちらも、「作る相手」がいたからこそ生まれた商品。一つひとつの商品に、思い浮かべる誰かの顔があるんです。

一つひとつに心を込めて、手仕事を守る。

商品開発や製造の過程で、大切にされていることと喜びを感じる瞬間はどんな時でしょうか?
一つひとつ手作りすることにこだわっています。お菓子って、季節の温度や湿度によって状態がすごく変わりやすいんです。その時の環境に合わせて、火の入れ方や温度を微調整しながら、最高の状態で提供できるよう心がけています。

喜びを感じる瞬間はやっぱり人の温かさを感じた時ですね。配達の帰りに見る夕日が本当に綺麗だったり、何か困った時にご近所さんに相談すると、みんなが助けてくれたり。都会では味わえない絆があるんです。

島の人から「あれ美味しかったよ」「子どもに送ったんだよ」「今度手土産にするね」と声をかけていただくことが、一番のモチベーションになっています。もっと美味しいものを食べさせてあげたい、喜んでほしいという気持ちが、私のお菓子作りの原動力ですね。

畜産とスイーツの新しい形を目指して。

現在、商品はどこで購入できますか?
知夫里島内に実店舗はないのですが、隣の西ノ島町にある別府港ターミナルでジェラート店を営業しています。そこでお土産も購入いただけますし、隠岐諸島の各ターミナルや売店にも置いていただいています。

なかなか島へ来られないという方には、インターネット販売も行っていますので、「めにーでーる」で検索していただけると嬉しいです。
最後に、これから挑戦してみたいことを教えてください。
今はご近所の方や、移住してきてくれた仲間と一緒に働いていて、毎日感謝しかありません。

これからはお菓子だけでなく、夫が経営している「イナザワファーム」の畜産とも連携していきたいと考えています。夫が育てている牛を使って、何か新しい商品開発ができないか、今ちょうど相談しながら準備を進めているところです。

スイーツとはまた違う分野になりますが、この大好きな知夫里島で、もっと色んなことにチャレンジしていきたいですね。

「商品一つひとつに、思い浮かべる誰かの顔がある」。その言葉に、めにーでーるさんの魅力が凝縮されていました。

島の「困った」を笑顔に変えたいという純粋な想いが、パティシエとしての確かな技術と混ざり合い、唯一無二の優しい味を生んでいます。近所の方から譲り受けたレモンや地元の豆腐など、島のご縁を大切に編み上げるその手仕事は、知夫里島の温かな空気感そのものです。

今後は畜産とのコラボレーションも始まるとのこと。この島で育まれる次なる「美味しさ」が、今から楽しみでなりません。

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